労働事件の専門誌『労働判例』2026年10月1日号(No.1357)の「命令ダイジェスト」に、東京都労働委員会の「学校法人多摩美術大学事件」が掲載されました。誌面では104頁から108頁にわたり、命令の主文、事件の概要、争点、当事者双方の主張、東京都労働委員会の判断が紹介されています。本件の中心的な争点は、多摩美術大学がプレカリアートユニオンとの団体交渉について、組合側に言動や態度を反省し、今後改めることを担保する方法の提案などを求め、それを団交再開の条件としたことが、労働組合法7条2号の団交拒否、同条3号の支配介入に当たるかどうかでした。

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団交途中の退席と、その後の団交拒否を区別して判断

誌面では、2023年10月19日の第4回団体交渉で大学側出席者が途中退席したことと、その後、大学が団交に応じなかったことを分けて検討した東京都労委の判断が紹介されています。

第4回団交では、教員補充をめぐる議論の中で労使双方の発言が重なり、大学側が自らの見解を述べることが困難な状態となったと大学側が主張していることについて、東京都労働委員会は、この時点で大学側が団交の継続は困難と判断して退席したことについては「やむを得ない」と評価し、正当な理由のない団交拒否や支配介入にまでは当たらないとしました。

しかし、その後の団交拒否については全く異なる判断をしました。大学は組合側の言動を問題視し、組合に反省、謝罪、誓約等を求め、その回答を確認した上で団交再開に応じるか否かを判断するという対応を取りました。これに対し組合は10月27日以降、繰り返し団体交渉を申し入れました。

「反省」を団交再開の条件とすることは許されない

『労働判例』が紹介する東京都労委の判断で重要なのは、組合側の言動に問題があったか否かという問題と、そのことを理由としてその後の団体交渉そのものを拒否できるかという問題を明確に区別した点です。

労使間には教員の労働条件をはじめ複数の交渉事項があり、継続して団体交渉を行う必要がありました。仮に大学側が組合側の発言や交渉態度に問題があると考えていたとしても、大学は団交の場で具体的に問題点を指摘し、改善を求めながら協議を続けることができました。

さらに東京都労働委員会は、大学側が問題視した「曲解」などの発言についても、発言の一部分だけでなく前後のやり取りを検討しています。その上で、大学側が主張するような意味に直ちに評価できない発言もあると判断しました。

結論として、大学が組合に対し、第4回団交における言動や態度を反省し、今後改めることを担保する方法を提案するよう一方的に条件を付し、それが満たされていないことを理由に10月27日以降の団交申入れに一切応じなかったことは、正当な理由のない団交拒否であり、労組法7条2号の不当労働行為に該当すると認定されました。また、その結果、長期間にわたり団交が全く開催されず組合活動が阻害されたとして、同条3号の支配介入にも該当するとされました。

代表権をめぐる大学側の却下主張も認めず

『労働判例』のダイジェストでは、もう一つ重要な問題として、プレカリアートユニオンの代表権・本件救済申立ての適法性をめぐる大学側の主張にも相当の紙幅を割いています。

大学側は、過去の組合大会における役員選出等をめぐる判決などを根拠として、本件救済申立ては組合の代表権を有しない者によって行われたものであり、却下されるべきだなどと主張しました。

これに対して東京都労委は、組合の規約、定期大会における役員選出、その後の大会における手続などを具体的に検討しました。誌面では、2025年9月13日の定期大会で、それまでの組合大会における役員選挙の立候補に係る手続について追認する決議が行われたことなども紹介されています。

その上で東京都労委は、本件について「労働組合の代表権を有しない者が当該労働組合を代表して救済申立てをした場合」に当たるとは認められず、労働委員会規則上の却下事由には該当しないと判断しました。

さらに重要なのは、誌面で紹介された大学側の主張には、代表権に疑義があることを団体交渉に応じない理由の一つとする趣旨のものも含まれていたのに対し、東京都労委がこれを団交拒否の正当理由として認めていない点です。東京都労委は、法人側が代表権について疑問を抱いていたとしても、その疑問を団体交渉の場で確認するなどの対応を取ることは可能だったとの趣旨の判断を示しています。したがって、代表権への疑義を掲げるだけで、団体交渉そのものを拒否し続けることは正当化されません。

条件を付けず「誠実に応じよ」と命令

東京都労委は、多摩美術大学に対し、2023年10月27日付申入れと同内容の「団体交渉ルールについて」など9項目について団交が申し入れられた場合、組合が言動や態度を反省し、今後改めることを担保する方法を提案することなどを条件とせず、誠実に応じるよう命じました。さらに、不当労働行為を認める内容の文書を組合に交付するとともに、大学構内の教職員の見やすい場所に10日間掲示し、その履行を東京都労委へ報告することも命じています。

『労働判例』が本件を「命令ダイジェスト」として5頁にわたり取り上げたことで、本件は単なる多摩美術大学と一労組との個別紛争ではなく、組合側の交渉態度への不満や代表権への疑義がある場合に、それを理由として使用者がどこまで団体交渉を拒否できるのかという労働組合法上の問題を示す事例として紹介されました。

命令が示したのは、労使間に深刻な対立があっても、その対立自体を理由に交渉の扉を閉ざしてよいわけではないという原則です。問題があると考えるなら、その問題も含めて団体交渉の場で具体的に協議します。本件は、そうした誠実団交義務の基本を改めて示した命令として、『労働判例』に記録されたと評価できます。

www.toroui.metro.tokyo.lg.jp

https://www.toroui.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/toroui/meirei5-63_besshi